コラム

2014年4月24日(木)

今、ツール、モデル、理論より大事なこと…それは納得性

松波 晴人

 様々な企業が、イノベーションや変革の必要性を理解しつつ、それでもなかなかうまく行かないのは、なぜなのだろうか。

 世の中はツールも、モデルも、理論も、様々なものがある。もちろん、とても理にかなっていて、それを正しく導入すればそれだけでかなり成果が変わってくるような「ツール・モデル・理論」も多い。

 どの企業も、新しいツールなどの導入には積極的である。成果を出すためには当然であろう。しかし、それでもなかなか成果があがらないことが多い。それはツールや理論のせいなのだろうか?

 あなたが歯医者に行くシーンを想像してみてほしい。引っ越したばかりでよい歯医者を知らないので、いちばん近くにある歯科医院に行ってみたとしよう。マスクと帽子で顔がよく見えない歯科医が現れた。あなたは自分の歯痛を具体的に説明したいのだが、その歯科医はあなたに何も聞かず、「まずは歯をクリーニングしましょう」と言いだした。あなたが戸惑っているうちに、助手が現れてあなたの歯の全面的な掃除を始めた。それが一通り終わった後、やっと歯科医に話を聞いてもらえたと思ったら、すぐに「じゃあ、それは抜くしかないですね」と返答され、来週歯を抜く予約をして帰ることになった。さて、あなたは来週もこの歯医者に行くであろうか?

 歯医者のやっていることに、「論理的」な間違いはない。「歯のクリーニング」は、患者への無償のサービスなので、客観的にみれば患者は得をしているだけで決して損はしていない。「歯を抜く必要がある」というのも医学的に全く正しい判断である。

 しかし、このプロセスで圧倒的に欠如していることがある。それは「患者にとっての納得性」である。たとえ客観的には「論理的」で「正しいサービス」であったとしても、患者には納得性がない。患者からすれば、「どうして勝手に私の歯をクリーニングしはじめるんだ?これは金がかかるのだろうか?」「本当に私の歯は抜く必要があるのだろうか?こっちの都合は聞かないで決めてしまわれても困る」と思ってしまうのは当然である。

 これと同じことがビジネスでも起きていないだろうか?いくら「ツール・モデル・理論」が正しくても、企業や組織の中の人たちに「納得性」がないためにゴールやアプローチが共有されない、共有されないためみんなで同じ方向に向かって行動が起きない、そういうことの方が本質的な課題なのではないだろうか。

 つまり、重要なのは「正しい理論」よりも前に、「ステークホルダーが納得性を持つかどうか」である。もちろん、「納得性」があった上に「正しい理論」があれば、最強である。しかし、「正しい理論」があっても「納得性」がなければ、「現場を知らない人間が頭の中だけで考えても、理屈通りに現場がうまくいくわけがない。」

 「本社がこれだけ時間をかけて作り上げた方向性を、現場はなにも理解していない」
といった言葉が出るだけで、物事が前に進むことはない。

 「ツール・モデル・理論」を導入してもなかなかうまくいかない、と感じているのであれば、「納得性を高めるにはどうすればいいか」を考えてみてはいかがだろうか?

 結局のところ、物事を動かしているのは限界も非論理性も抱えた生身の人間である、というファクトをもとに考えれば、どうすればよいか、も見えてくるはずである。

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