コラム

2014年7月30日(水)

「人間にしかできないこと」をする、という未来

松波 晴人

 「ロボットを発売します」というテレビCMを見かけるようになりました。また、工場の自動組み立てラインでも、多品種生産に対応し、複雑なことを成し遂げるヒト型のロボットが活躍しています。それだけ、ロボットが進化し、さらにはロボット自体のコストが下がっているからです。

 ロボットだけでなく、コンピュータもすごく進化していて、チェスはもはや人間はコンピュータに勝てません。サッカーのワールドカップでのドイツの優勝にも、コンピュータが寄与しています。

 このようにロボットやコンピュータが指数関数的に進化していくと、今後世の中はどうなっていくでしょうか?「機械との競争(ブリニョルフソン、マカフィー著)」は、それまで人間の仕事だったものが、ロボットやコンピュータに奪われていくと指摘しています。

 それはある意味当然でしょう。ロボットやコンピュータは決して疲れないし、不平不満は言わないし、一貫して成果を出し続けることができます。しかも本体がどんどん安価(先述の多品種生産ロボットは400万円程度)になっていくと、工場の組み立てラインで人間がしていた仕事がロボットに置き換わってしまいます。

 チェスのような知的なゲームであっても人間が勝てなくなっている中、さらにロボットやコンピュータが進化していくと、最終的にはどういう仕事が人間に残されていくのでしょうか?

 上記の書籍によると、それは「人間にしかできない仕事」です。そしてそれは、創造性のある仕事のことを指します。たとえば、ホワイトカラーの仕事で単純な内容のものは、コンピュータに置き換わることが実際に起きています。定型的で反復的な仕事は、その単純さゆえにパターン化が可能で、一貫して繰り返すことが得意なコンピュータにさせたほうが、コストという観点からだけみれば合理的です。

 一方、自動化しにくい仕事がサービス業に存在します。美容師はその一例です。お客さまから「夏らしく短めに」「タレントの●●さんのような感じで」といったあいまいなオーダーを聞き、それを解釈した上で、パターン作業としてカットするのではなく、その一人一人のお客さまに似合うようにカットをする、これは「オーダーメイドの一品もののデザイン」をするのと同じです。その業務プロセスにおいては、お客さまの要望を「解釈」すること、そしてヘアスタイルをデザインする「創造性」が必要になります。

 日本が今後少子化で人口が減っていく中、世界と伍していくためには、より「人間にしかできないこと」の能力を伸ばしていく必要があると思われます。つまり、学校教育においても人材育成においても、「人間にしかできないこと」、すなわち「解釈」や「創造性」について学べることが重要になってくると考えられます。

 ただ、これまで我々は「人間にしかできないこと」を教育されてきたでしょうか?これまでの教育や人材育成は、「正解が明確で」「誰がやっても同じ結果が出る」内容だったのではないでしょうか?

 膨大な時間を費やして勉強して「優秀」と呼ばれたとしても、それがコンピュータやロボットに置き換え可能な能力であれば、あまり意味がないかもしれません。つるかめ算ができる、というのは解法の「パターン」を知っている、ということであり、それはコンピュータやロボットで代替できてしまいます。大学受験のための勉強も、解法の「パターン」の集積と見ることが可能です。

 「解釈」や「創造性」は、答えは一つではないし、正しいかどうかの判断も簡単ではありません。しかし、それを「ツール」「手順」として学ぶというよりは、「マインドセット」を含めて学ぶ、ということが必要だと感じています。

 今年のサッカーのワールドカップはドイツが優勝しました。ドイツの戦略は、まさにビッグデータと人間の知恵の組み合わせでした。相手チームの選手の動きをリアルタイムですべて計測し、そこからシステムを使って「自チームの選手がこう動けば、隙が生じる」というアウトプットを出し、それに基づいて戦術を考えることで、優勝にまで到達したのです。

 チェスにおいて、「コンピュータ」は「人間」を負かしてしまう、ことはすでにご紹介しましたが、その「コンピュータ」よりも強いものがあります。それは「コンピュータ+人間」です。つまり、コンピュータだけで戦うよりも、人間も参画して知恵を出す方が強いのです。

 コンピュータやロボットが得意なことは任せて、我々は「人間にしかできないこと」に特化する、そしてそれぞれが補完的に取り組む、というアプローチが重要であるし、今後より重要になる、と私は考えます。