コラム

2014年9月25日(木)

「人によって違う」からの真逆の気づき

松波 晴人

 2週にわたって、ニューヨークのマンハッタンで行われたEPIC(The Ethnographic Praxis in Industry Conference:エスノグラフィーをビジネスに活用する国際学会)と、慶応大学で行われたサービス学会に参加してきた。どちらの学会からも膨大な気づきを得たので、機会を変えて、ぜひみなさまにご紹介したいと考えている。

 うって変わって今回のテーマは「人によって違う」からの気づきについてである。我々はみな、常日頃からいろんな人に接している。多様な人々に出会うと、それによって新たな気づきを得ることになる。しかし私は先日、それとはまったく異なる気づき、どちらかというと真逆の気づきを得ることになった。

 私がその気づきを得たのは、ある営業ロールプレイング大会においてである。ある一人の女性にお客さま役になってもらい、その女性に対して、6人の営業担当者が同じ商品をお勧めするべく営業トークを繰り広げる。

 そのお客さま役の女性は、常に同じ人物・人格を演じる。営業担当者によって、その人物像を変えることはない。そして、営業担当者がお勧めしようとする商品も、常に同じものである。ロールプレイングをする時間も全員まったく同じ時間が与えられる。また、各営業担当者は、自分の順番が来るまで他の営業担当者がどのようなトークをするのかを見ることは許されない。つまり、それぞれの営業担当者に与えられた条件は、厳密なまでに同じにしてあった。

 興味深いのはここからである。

 6人の営業担当者は、全員がとても優秀な人たちである。だからこそこの大会に出場しているわけである。そしてその6人の人たちは、それぞれ独特の強い個性を持っていたのである。

 ある営業担当者は、まるで「授業が面白い学校の先生」のように、笑える自分のエピソードを交えながら、巧みに商品のアピールをしていく。授業の半分以上が面白い話、ぐらいの勢いで、お客さまを楽しませていく。見事である。

 また別の営業担当者は、「緻密なコンサルタント」のようである。丁寧にお客さまのニーズをお聞きしながらも、あふれんばかりの真面目さで、的確に要求にお応えしてソリューションを提案していく。

 さらに、次の営業担当者は、まるっきり「高級ホテルのコンシュルジュ」である。ものすごく上品な言葉づかいで話し、しかもそれが嫌味にならずに、丁寧に接客する。

 さらにさらに、その次の営業担当者は「まだ高校生の息子」のように、お客さまにとって可愛い存在となって商品を紹介する。まるでその家にずっといる本当の息子かのように、その場に溶け込んでいく。

 私が興味深いと思った点は、こういった「キャラクターがはっきり違う営業担当者」が次々と登場してパフォーマンスを遺憾なく発揮する中、「同じ人格」であるお客さま役の女性の振る舞いや雰囲気や感情が、営業担当者が変わると、それぞれまったく変わっていたことである。

 「面白い学校の先生」のときには、お客さま役の女性は「授業を楽しむ生徒」のようになる。とにかく自然に笑い、ほがらかで楽しい人になっている。 「緻密なコンサルタント」と話すときには、お客さま役も「真面目なクライアント」のようになる。真剣な顔つきで真面目に話を聞いて検討をしている。 「ホテルのコンシュルジュ」のときには、「高級ホテルに宿泊しているレディ」になる。丁寧に接客されることで、落ち着いた雰囲気でかつとても機嫌が良い。そして、自然とふるまいが上品になる。 また、「高校生の息子」のときには、「あたたかい母親」になる。まるで親が自分の可愛い子を見るような目で営業担当者を見つめて、とても優しい雰囲気になる。

 つまり、同じ一人の人間であっても、同じ条件でゴールが同じことをしても、そのプロセス、すなわち「どのようなコミュニケーションスタイルをとられるか」が変わることによって、これだけ人間の振る舞いが短時間でも大きく変わっていくということである。

 我々は、このことに気づくことは少ないのではないだろうか?

 日常生活において、いろんな人たちに出会い、「いろんな人がいるんだなあ」と思うことはあっても、「自分が行動を変えることで、周りの他人も大きく変わっていく」ということに、どれだけの人たちが気づいているだろうか?

 営業担当者は、常日頃「いろんなお客さまがいるなあ」「お客さまによって、同じことを説明しても反応は人それぞれだなあ」ということには気づいていると思う。このロールプレイング大会がとても偉大だなあ、と感じたのは、「自分が営業のやり方を変えれば、相手が同じ人間でも反応が全然違ってくるんだなあ」ということに気づくことができる、という点である。

 みなさんも、「自らが変わってみる」を実践してみてはいかがだろうか?それによってあなたの周りの世の中も大きく変わっていくと私は思う。

キーワード