コラム

2015年5月27日(水)

持続的に成長するために、我々はどういった関係性、どういった意志をもつべきだろうか?

松波 晴人

3月のコラムでは、
“「どういった価値を顧客に提供すべきか?」といったWicked Problemに答えを創っていくためには、「正しいか」「正しくないか」という枠組みで考えるのではなく、「意志に合致するか」「しないか」という枠組みで考えるべきではないか”、と提言した(参照)。
さらに、4月のコラムでは、
“Wicked Problemに立ち向かい、組織の方向性や提供価値を意思決定してアクションを取るためには、組織のレジリエンスを上げ、「組織と組織」「人と人」の関係性を良くすることが重要である”、と述べた(参照)。

今月は、さらにこの問題を掘り下げ、Wicked Problemに答えを創るために「関係性はどうあるべきか?」「意志をどう持つべきか」について考えてみたいと思う。

あなたはある企業の社員で、「このまま何もしないでいると自社がじわじわと弱体化していくのが目に見えており、何か新しい方向性を打ち出さねば」という危機感をもっているとしよう。常日頃から「これからどういった価値をお客さまに提供するべきか?」を考え続けた結果、素晴らしい案を思いついた。「これならお客さまに喜んでいただけるし、社員も喜んで取り組んでくれそうだし、社会のためにもなるし、よいソリューションだ」と確信したあなたは、さっそく上司や上層部に提案する。しかし、残念ながら反応は芳しくなく、「それは本当にうまくいくのか?根拠はどこにある?」「それは10億ぐらい儲かるのか?」「そんなことをはじめたら、従来からのサービス・商品が打撃を受ける」と言われてあえなく却下されてしまった。
たとえそのソリューション案が、世の中に出せば広く受け入れられる案であったとしても、意思決定のプロセスで採用されなければ、何事も起こすことができないし、そもそもその案が妥当なものかどうかも分からないままとなってしまう。そして、その案を提案した人は、「これほどの案でも却下されてしまうのであれば、もう何を提案しても無駄だろうな」という諦めを学んでしまう。
これがまさに「Wicked Problemを、Complex Problemとしてとらえることから起こる」事態である。

では、どうすればよいのであろうか?
取り組むべきことの一つは「関係性」であり、「意志」である。
では、まず「関係性はどうあるべきか」という観点から考えてみよう。

我々がもつべき「関係性」とは?

以下の発言を複数の会社で耳にしたことがある。
「うちの会社にイノベーションは無理です。なぜって、うちにはスティーブ・ジョブスがいませんから」
こう発言する人の考え方には、次のような暗黙の前提があると思われる。
「イノベーションが起こせるかどうかは、リーダーシップで決まる。素晴らしいリーダーがいれば、イノベーションは起こせる」

この考え方に対しては、半分賛成、半分反対である。もちろん素晴らしいリーダーは必要である。ただ、リーダーがいるだけでは不十分である。リーダーシップはもちろん大変重要だが、あまりにも過大視されているきらいがある。企業が業績を上げると、メディアに登場して「どうしてそれを成し遂げたのか」を語るのは必ずリーダーである。しかしリーダーだけで壮大なことを成し遂げることはできない。
スポーツでもあるチームが優勝すると、監督がその勝因を語ることになるが、実際に成果を出すのはプレイヤーたちである。監督とプレイヤーは、お互いがお互いを必要としており、どちらかだけでことを成せるわけではない。
ここで、監督をリーダーだとすると、プレイヤーたちはその監督の考え方を支えて具体的な成果を出すフォロワーだと考えることができる。
つまり、イノベーションを起こすためには、リーダーシップだけでなく「フォロワーシップ」という概念が重要となってくる。

フォロワーシップの5つのスタイル

カーネギー・メロン大のロバート・ケリー教授によると、組織の成功へのリーダーの貢献度は20%であり、フォロワーが80%だという。そして、フォロワーシップにもさまざまなスタイルがあり、そのスタイルによって成果が出せるかどうかが決まるという。
ケリー教授のいう「模範的なフォロワー」とは、「建設的な“物申す”部下」である。業務に積極的に関与するとともに、自分で考えたことを(たとえリーダーの意見と違っていたとしても)表明する人のことを指す。あなたの組織には、こういったフォロワーはどれぐらいいるだろうか?そして、こういった「自分の意見をはっきりと言う」人を受け止める土壌があるだろうか?「あいつは思ったことをはっきり言うから困る」という文化では、「模範的なフォロワー」は窮屈な思いをすることになるだろう。
「模範的フォロワー」以外にも、様々なフォロワーのスタイルがある。たとえば「順応型フォロワー」。これは「リーダーにこびへつらう子分」と考えればよいだろう。威張り散らす人がリーダーで、命令に従うことが最も重要な職場環境であれば、こういう人が増えるだろう。ただ、リーダーが自分とは異なる角度で考えることは実質的になくなってしまうので、リーダーの能力=組織の能力となってしまいがちである。
次に紹介するのは、「孤立型フォロワー」である。これは「反抗的な一匹狼」と考えればわかりやすい。はっきりとした意見を表明するが、積極的に関与するわけではない。この人たちは、もともとは模範的なフォロワーであった、という場合が多い。しかし、組織から正当な扱いを受けないなど、なんらかの形でモチベーションを失うことが起こり、怒りを抱えてしまった人達である。最近、組織の中で「イノベーター」だとみられていた人が会社を辞めてしまうことが多いと聞くが、それは組織の中で異端扱いされ、「孤立型フォロワー」と化してしまったからではないだろうか?
さらには、努力してもしょうがない、上に従うしかない、と考える「指示待ち人間」としての「消極的フォロワー」もいる。
もちろん、「孤立型フォロワー」も、「消極的フォロワー」も問題なのであり、ぜひ「模範的フォロワー」になってもらうべくアクションを取る必要がある。ただ、現状で一番数が多いフォロワーのスタイルは、これから述べる「実務的フォロワー」であり、この人たちをいかに「模範的フォロワー」にしていくかが大きな課題であると考える。
「実務的フォロワー」とは、ここまでの4タイプのフォロワーの持つ要素すべてにおいて中庸的なポジションにいる。特に確たる思いもアクションもなく、組織がどっちを向いているか、という波の動きに合わせて自分も動く、「実務的フォロワー」は、まるで「クラゲ」のような存在である。
「実務的フォロワー」は、規則やルールがうるさく、冷ややかな人間関係で、一貫性のない戦略のもとに動いている組織では多くなりがちである。

いくらリーダーが明確なビジョンを持った上でフォロワーを鼓舞できる人たちであっても、フォロワーがどういう人達であるかによって、出せる成果は変わってくる。これが「フォロワーが成果の80%を決める」とされる理由である。
ただ、これについては反論もあるだろう。「フォロワーの文化や雰囲気を作り上げるのは、それまでのリーダーや組織の文化なのだから、結局はリーダーで決まるのではないか」という反論も成り立つ。
ただ、過去を乗り越えて、これからイノベーションを起こすのであれば、リーダーシップとフォロワーシップのどちらも重要である、のは間違いない。つまりは「関係性」のスタイルがカギを握っているということである。

「実務的フォロワー(=クラゲ)」が多いという実情を踏まえると、どうすればいいか、も自然と見えてくる。上述の、「実務的フォロワー」が増える環境的要因に目を向けてみよう。
まず、「規則やルールがうるさい組織」ということでいうと、今はどの組織でもコンプライアンスが厳しくなり、「これはダメ」「あれはダメ」というフィードバックが多くかかっている。
「冷ややかな人間関係」というのは、先月のコラムにも書いた、silo状態のことだと考えられる。人間関係、そして組織と組織の関係が悪化している現象のことである。
最後の「一貫性のない戦略のもとに動く」というのは、組織の中での議論が「我々は何のために、どういう意志を持ってこの仕事をしているのか」という思いや哲学が語られず、「とにかく儲かればなんでもよい」という枠組みだけで議論するようになると、会社の戦略や意思決定に一貫性がなくなってしまう、という意味である。これは本稿の2つ目のポイントである、「意志」についての問題であると考えられる。

ここでいう「意志」とは、「組織・会社の意志」のことを指す。どういう「意志」を我々は持つべきなのだろうか?

自分の仕事についての3種類の「意味合い」とは?

ここであなたに以下の質問に答えていただきたい。
Q: 宝くじを買ったら、幸運なことに、あなたに10億円が当たりました。さて、あなたはどうしますか?
選択肢A:すぐにでも勤め先を辞めて、遊んだり休暇をとったりする。
選択肢B:今の仕事は辞めるだろうけれども、次の仕事を探すだろう。
選択肢C:大金を手に入れたとしても、今の仕事は辞めない。

さて、まずは自分の取る選択肢を正直に決めていただいた後に、以下の解説を読んでいただきたい。

選択肢Aをえらんだ人にとって、今の自分の仕事はJobである。仕事は日々生きていくために必要なお金を稼ぐ手段以上のものではない。
選択肢Bをえらんだ人にとって、今の自分の仕事はCareerである。仕事とは自分自身がより良くなっていくためのものである。
選択肢Cをえらんだ人にとって、その仕事はCallingである。その仕事はあなたにとっての天命であり、あなたが生きている意味と直結するものである。

このように、一口に仕事と言っても、そのとらえ方にはJob、Career、Callingと3つの種類がある。興味深いのは、どのような職種においても、働いている人たちはそれぞれ、この3種類のどれかの意味合いで働いている、ということである。たとえば、高給取りで高いポジションにあり、世間から羨望のまなざしで見られるような仕事に就いていても、自らの仕事をJobだととらえている人もいれば、安い給料であまり脚光を浴びないような仕事であっても、Callingとして取り組んでいる人もいるのである。
あなた自身は、自分の仕事をこの3つのどの意味合いでとらえているだろうか?
また、あなたの組織で働いている人は、自分達の仕事をどの意味合いでとらえた上で取り組んでいるであろうか?

我々がもつべき「意志」とは?

自らの仕事をCallingとしてとらえている人達は、その仕事に自分の人生をかけるほどの意義があると考えて取り組んでいる。
あなたの組織が存在する意義はどこにあるだろうか?
そもそも、自社はなんのために存在し、誰に何を提供するために今ここにあるのだろうか?
こう問われて即答できる組織人はどれぐらいいるだろうか?

そしてこの問いへの答えこそが、組織の「意志」である。組織の「意志」が明確で、組織の人たちにその「意志」が文化として広く共有されている組織は強い。意思決定も早いし、思い切ったことも実行できる。
逆に、「それは10億儲かるのか?」という議論だけをしているようだと、それはその組織が明日のお金を稼ぐことだけが目的のJobという枠組みで仕事をしていることを意味する。
組織の人たちがJobとして仕事に取り組むのであれば、「個人の意志」「組織の意志」は重視されないので、組織の中のひとたちの方向性はバラバラになり、自然と「クラゲ」が増えていくだろう。

あなたが「マイホームを買おう」と一大決心をしたとする。
どの家を買うかを決めるために、あちこちのショールームや建設現場を訪問する。
建築現場で働いている人に声をかけてあなたはシンプルな質問をする。
「あなたは今、何をされているんですか?」と。
そうすると、会社によって、答えの内容が違った。

会社Aの現場の人の答え: 「時給○円で、レンガを積んでいます」
会社Bの現場の人の答え: 「建築士を目指して、現場で修業をしています」
会社Cの現場の人の答え: 「あたたかい家庭を、ひとつずつ増やしていく仕事をしています」

それぞれがJob、Career、Callingを示していることは言うまでもない。
果たして、あなたはどの会社から家を買おうと思うだろうか?
最終的に「お客さまに価値を提供し」、「お客さまに選んでもらえる」組織は、どの組織だろうか?

結局のところ、「なんのために自社は存在するのか」「どういう価値を世の中に提供するために日々仕事をしているのか」という自社の哲学・価値観を明確にし、共有し、組織の人たちがそれぞれ「自分たちごと」として考えて働く組織をどのようにして実現していくか、が遠回りのように見えて実は一番早道であり、重要であると考える。

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