コラム

2017年7月26日(水)

行動観察 × デザイン vol.1

松波 晴人

ziba tokyo 平田智彦氏に聞く(前編)

 新たな価値を生み出すための手法やクリエイティブツールが普及し、多くの現場で実践されています。しかしその一方で、成果につながっていないという現場も少なくありません。イノベーションにつながらない理由は何なのでしょうか。どうすれば創造的で革新的なアウトプットを出せるのでしょうか。ziba tokyo平田氏と松波の対談を通じて、ziba tokyoと行動観察研究所が協業する理由、行動観察×デザインについて紹介できればと思います。
※本記事はBiz/Zineで掲載された記事を一部編集して掲載しております

 

その1:
とにかく顧客調査すればクリエイティブな示唆が得られるというわけではない

仮説検証型リサーチではクリエイティビティにつながらない、仮説「生成」型が必要


――近年、デザイン思考や人間中心設計(HCD)が普及し、行動観察などの定性リサーチも多く実施されるようになりました。しかし、必ずしも調査が創造的なインサイトやアイデアにつながっていないようですが、何が問題なのでしょうか。

松波晴人(大阪ガス行動観察研究所 所長):
  行動観察が形としては実施されていても、その本質が理解されていることはまだまだ少ないんですよ。というのは、仮説検証のことをリサーチと思われていることが本当に多い。仮説検証型リサーチは、既にある仮説(考え)を確認するだけなので、それをいくら実施しても新しい視点は生まれずクリエイティビティにはつながらない。イノベーションにつながるような新しい気づき・発見するためには、仮説「生成」型の調査でなければならないんです。

平田智彦(ziba tokyo 代表取締役):
  そうですね、検証型と生成型をしっかりと意識できていないところは多い。たとえば、「それは本当に調べたのか」という上司を納得させるためのリサーチをリサーチとよぶところでは、行動観察などはリサーチではないというんだろうね。誰かを納得させるためのリサーチだったら、その人に合わせないといけないリサーチだから、クリエイティビティという観点では意味が全然ないですよね。

平田智彦氏(ziba tokyo 代表取締役)
 愛知県立芸術大学美術学部デザイン専攻を卒業後、キヤノン株式会社にて映像事務器デザインを担当。1989年より株式会社ブリヂストンにてプロダクトデザイン業務、VI計画等に従事したのち、アメリカに赴任し、在任中にzibaUSの業務を兼務。帰国後、ブリヂストンデザインセンターがAXISと合併したことを契機に、AXIS内にプロダクトデザイン室を創立し、多様なデザイン開発に携わる。2006年、ziba tokyoを設立。zibaUSのメソッドを日本で応用しながらデザイン開発全体をリードする組織の代表を務める。

「リサーチは不要」というのも仮説検証型の話でしかない


――また、そもそもリサーチが不要と公言している経営者やデザイナーなどもいらっしゃいますが…。

平田:
  リサーチからは何も見えてこないと言うデザイナーはいる。確かに、未来はみえてこないかもしれないけれど、モノにせよ、サービスにせよ、コトにせよ、人間が何を求めているかというのはいろいろと出てくるじゃないですか。一過性の要求ではなく、未来でも通じる普遍的なヒトのニーズがリサーチからみえてくる。そういう使い方をしないでリサーチは不要と言っているんじゃないかな。

松波:
  それも仮説「生成」型リサーチの話ではなく、「検証」型だけをリサーチだと定義してしまっているように思いますね。

平田:
  リサーチといっても、検証型と生成型では利用の仕方が全然違いますよね。混同して考えてはいけない。

平田:
  また、リサーチ不要論についてもう少し別の観点でもいうと、リサーチなしにおもしろいアイデアが出てくることがあることも事実です。ただ、そうしたデザイナーの「閃き・直観(Intuition)」は、日頃から見たり聞いたりしてきたものから出てくるわけなので、経験がリサーチの役割を補完しているということなんです

松波:
  つまり、リサーチについての要・不要ではなくて定義の問題だということで、デザイナーは日々の生活の中で行動観察をしていて、仮説「生成」型リサーチをしているというわけですね。

行動観察には「リニア思考」と「リフレーム思考」の2種類がある


――仮説生成型のリサーチを実践する上で、重要なポイントはあるのでしょうか。

松波:
  行動観察にも2種類あるんです。リニアな行動観察とリフレームが起こる行動観察です。リニアな行動観察というのは、シャーロック・ホームズにでてくるワトソンのように、ある事実に対してまじめに正しく考えたらこうなるよねという落ち着きのいい考え方(常識的な枠組みで理解)をする。これもインサイトといえばインサイトかもしれないけれど、このような既存の考え方の延長にあるリニアなインサイトでは新たな仮説は生まれないので、イノベーションにはつながらない

 常識的とされてきた枠組みを新しい視点・発想で作り直すことを「リフレーム」といいますが、インサイトがリフレームされていないと問題のとらえ方の視点が変わらないわけですから、従来の枠組みの中でのカイゼンにしかならないんですよね。だから、クリエイティビティが求められるプロジェクトでリニアな行動観察をしてしまうと、「それは知っていたよ」となる。一方、問題のとらえ方がリフレームされると、これまでとは全く違う発想の新しい仮説が出てくる

松波:
  実際、様々な新価値創造のプロジェクトの実践を見聞きしていると、リニア思考で進めているものが多いように思います。リニアなインサイトのままデザインプロセスを進めプロトタイピングに時間をかけて工夫しても、インサイトが平凡であればおもしろいものにならない。

平田:
  なるほど。ということは、リフレームしたインサイトに対してプロトタイピングが紐づいてくればいいんですよね。

松波:
  そうなんです。プロトタイピングの前にインサイトがリフレームされていることが重要で、そこにもっと力を注ぐべきなんです。

 デザイン思考や人間中心設計(HCD)などにしても、手順として取り入れるだけだとカイゼンにとどまってしまいます。本質はリフレームにあるわけなので、「いかにリフレームして、新たな仮説を生み出し、どういう問題としてとらえるか」のところから考えないと、リサーチをいくら実施してもイノベーションにはつながらないと思います。

 

その2:
顧客視点だけでは創造性高いアイデアにはつながらない

デザイン思考は、「ブランド」の視点が抜けがちである


――カイゼンにとどまらず、イノベーションにつなげるためには、他に何を注意すべきでしょうか。

平田:
  「顧客にフォーカスする」ということが重視されるようになったのは決して悪いことじゃない。ただ、人(ユーザー)にフォーカスするだけでは、各社同じ商品になってコモディティとなり、価格競争に陥ってしまう。期待値を超えた、「好き」というものにならない。だから、zibaが絶対意識するのは個々のブランド、いわばDNAです。どの会社もいっしょじゃないということですよ。各社には他社にはない固有の技術だとか特許を踏まえた独自の展開があるはずです。デザイン思考や人間中心設計(HCD)では、ブランドのフレームが抜け落ちていることが多いため、これらの視点が抜けることが多い。zibaでは「ブランド/DNA」を踏まえるようにしています。

――ブランドの視点も入れて、アイデアやデザインに昇華させていくことが大切なのですね。

平田:
  インサイトにもとづいたコンセプト、それを具現化していくと体験に置き換わる。その時に、他社がやっても自社がやっても二番煎じは飽きるよね。感動が薄れるでしょ。そうならないために、維持する部分と変化させる部分を持っておかないといけない。この維持と変化の両輪を上手くやれていないところが多い。デザインで考えると、同じものを来年は出せないわけですよ。さらに再来年も継続するのであれば、変化の余地を残しておかないといけないわけでしょ。予測しながら。

松波:
  戦略的にですね。

平田:
  そういうところが、「個別最適だけのデザイン」と「全体最適をするデザイン」の違いですよ。

松波:
  なるほど。変える部分と変えない部分、変えない部分は人間の根源的な欲求に根差しているところでしょうね。そこはあまり変わらないところだから。そして、変えるべきところはどこかといえば「文化」。

平田:
  そうそう。

松波:
  文化・価値観は、割と早く変わる。イノベーションは、「新たな文化を生み出すこと」だともいえる。ただ、人間の根源的欲求に反することをやってしまうとまずい。

平田:
  そこはブランドで考えるとよくわかるんですよ。ブランドで考えると、認知させるためには同じことを繰り返していかないといけないよね。ブランドの視点はデザインしていく上で非常に重要なわけです。

 

顧客視点だけではなく、あらゆる情報を統合することが重要


平田:
  行動観察研究所はヒトの行動を研究しているじゃないですか。一方、zibaでは、ヒトの周りにあるトレンドなどデザイナーの視点で観察し続けている。世の中で提供されているモノやサービスは、ヒトの行動にある裏側にあるものを映し出している。つまり、zibaは社会トレンドからみていることを行動観察研究所はヒトからみていく。だから行動観察の話を聞くと、ぼくらもワクワクする。

松波:
  確かに、行動観察の結果だけから、深いInsightやForesightが出てくるというわけではないですね。調査結果・分析というよりは、普段の生活の中で映画を見たり、本を読んだり、歩いたりしているときに、閃くことが多いです。要するに、行動観察を起点にはするのだけれど、決して観察調査からの情報だけから考えているのではなく、それ以外の様々な情報を統合するから、より深いインサイトやアイデアコンセプトが生まれてくるということですね。

平田:
  そのようにして、インサイトを出す会社はなかなかないんじゃないですか。

松波:
  行動観察研究所では、なぜこの映画はヒットしたのか、今なぜこれが売れているのかなどをよく話します。リフレームしたインサイトを出すためには、このように日頃から社会トレンドも洞察することが必要なんですね。そのような情報なしで調査データの表層的な分析から抽出した結果は、あまりインサイトとはいえないものなのではないでしょうか。

【後編に続く】