コラム

2017年8月10日(木)

行動観察 × デザイン vol.2

松波 晴人

ziba tokyo 平田智彦氏に聞く(後編)

 どうすれば創造的で革新的なアウトプットを出せるのか。今回のziba tokyo平田氏と松波の対談の後編では、クリエイティビティ・ワークで陥りやすいポイントの3つ目を紹介するとともに、それを通じてziba tokyoと行動観察研究所が協業する理由、「行動観察×デザイン」について紹介できればと思います。

前編:「行動観察 × デザイン vol.1」

※本記事はBiz/Zineで掲載された記事を一部編集して掲載しております

その3:
創造に対する自信を持って、デザインプロセスをワークショップ形式ですすめればよい、というものではない(それ以前の根深い問題がある)

スキルや方法論ではなく、クリエイティビティに対する姿勢・マインドが問われている


――調査後の分析やアイデア出しなど、ワークショップ形式で進めることがますます増えてきたと思います。より協働・共創的で、クリエイティブなプロジェクトとするために重要なポイントはありますでしょうか。

松波晴人(大阪ガス行動観察研究所 所長):
 100%正しく、誰が考えても同じとなる結論を探すことを100点主義と呼んでいますが、この100点主義からはイノベーションは生まれません。100%正しいイノベーションのアイデアなど存在しないからです。「正しく」を最優先するとイノベーションはおきないということです。

 一方、正解はないのだと気づいていると、自分たちが何をやりたいのかという意志やヴィジョンの重要性を理解し、一緒に考えてくれるビジネス“パートナー”を求めます。クリエイティビティには、このような姿勢・マインドが必要になるのです。

平田智彦(ziba tokyo 代表取締役):
 答えはいつもクライアントの中にあるんですよね。当然、クライアントはその分野について我々よりよく知っているし、蓄積された知見や文化がある。我々が短期間で同じものを身につけられるとは思えません。ただ一方で、クライアントには知識やノウハウは圧倒的にあるんだけど、何が課題かは曖昧で自分たちだけでは気付かないことも多い。デザイナーは元来、課題を見つけ出すのが得意なんです。

 zibaと一緒にやることで、内輪だけでは気付かなかった視点に辿り着いたり、チーム間を横断してワークショップをやることで、「あのチームはこんなこと考えていたのか」と新しい発見があったりする。クライアントにはその柔軟性を持ってもらいたいし、それを引き出すのがzibaなんです。

松波:
 それは行動観察研究所が目指すところと全く同じですね。

――リサーチャー、デザイナー、コンサルタントなども、「答え」を知っている先生という立場で上から「正解」を提供するというようでは協働・共創は生まれないし、一方で、クライアント側も「正解」を教えて下さいというようではいけない。お互いが一緒に答えを創り出していくという姿勢・マインドでなければいけないということですね。

平田:
 そうですね。やり方はいつも同じじゃないよね。うちのメンバーも、毎回必死ですよ。同じだと飽きられるし、同じ課題なんてないから。だから、コクリエーション(共創)するんです。

松波:
 
正しいソリューションではなくて、どういう問題かというところで、なるべく妥当性の高い仮説を提供しますということですよね。やはり、そういう考え方がziba tokyoと行動観察研究所は一緒なんですね。このあたりの根元にある考え方が違うと、いくら機能やスキルが補完関係にあっても、なかなかうまくいかないかもしれませんね。
 

人が育つプロジェクトにする


――また一方では、協働も共創も要らないから、一人の天才デザイナーによいデザインを早くしてもらいたいという要望もあるのではないかと思います。

平田:
 
一過性のヒットを作り出すのであれば、「早く何らかの答えを」という受動的な姿勢でもいいかもしれないけど、継続的にやっていきたいというのであれば(クライアント側の)社員自身が成長しないといけない。確かに、一人で何でも解決しちゃう天才、そういう人もいていいし、そういう人に任せるのもあると思う。一方では、答えを与えるのではなく、クライアントに寄り添って一緒に考えながら導いていくやり方がある。行動観察研究所もそういう進め方ですよね。

 どちらの進め方もあると思うけど、継続的にしていかなければいけないと思っている企業が多いように思う。そうすると、クライアントに寄り添って一緒に考え、その中でクライアントのメンバー自身が成長もしていくような進め方が求められるということです。

 このような協働プロジェクトとするためには、デザイナーが影響を及ぼすということが重要です。真のデザイナーはみんなの発想をより活性させクリエイティブにするような影響を与えることができる。そのため、共創プロジェクトとして上手く回り出すんですよね。

 

まとめ

創造論的デザインはNG


――さて、ここまで3つの陥りやすいポイントについて話してきて、あらためてお聞きしますが、クリエイティブで、イノベーティブで、よりよいデザインを創り出していくためには、何が必要でしょうか。

平田:
 単にいわゆるデザインプロセスを踏めばいいという話ではないよね。

松波:
 まずはマインドセット、どういう心持ちで仕事をするかということは重要ですよね。「新しい価値を創る」というときに、進化論ではなく創造論(神がすべてをデザインしたという考え方)でとらえている人が多いと思います。例えば、動物の目は、ものすごく精巧によく出来ていますが、それは全能の神が創ったものではない。突然変異を経て、環境に適合したものが残った結果、すごく良いものになった。「新価値」も同じ。新価値は試行錯誤の上で成功につながっているのであって、最初から誰かが完璧に仕上げたものとして生まれるものではない。新価値を議論するときに100点を求め、むやみな確実性を求め、エビデンスを求めすぎるというのは、「新価値は神の手になる創造」論だと思う。

平田:
 仮説を立てて、プロトタイプを作って、検証して、というプロセスを回した経験がどれだけ多いかというのは、どれだけいい失敗をしているかに通ずるよね。だから、いい失敗をどれだけつくるかというのが、開発プロセスの設計の中に本当は入ってないとダメなんだよね。

松波:
 一番効率よく学ぶ方法は、失敗することですからね。

平田:
 必要ない失敗はやっちゃいけないと思うけど、必要ある失敗がデザインには不可欠だと思う。失敗をどう定義するのかも重要ですが。

松波:
 必要な失敗というのは、そこから学ぶかどうかですよね。
 

リサーチとデザインの懸け橋になる「リフレームされたインサイト」


松波:
 また、リフレーム思考も必要です。既存の延長上で考えるリニアではなく、違う仮説を出しちゃおうと、新しいけれどより妥当性の高い仮説を出す。シャーロック・ホームズみたいに、意外な犯人だけれど、確かにその方が犯人だねとなるように。
 それにはクリエイティビティが必要になってくるんですよね。研修をしていると、着観力から気づきを得て解釈を出すまでは誰でもすぐにできるようになるんだけれど、リフレームしたインサイト*を出しましょうとなると途端に難しくなる。

平田:
 そのクリエイティビティが必要というところで、安直に「ではデザイナーを加えて」ということではないんですよ。誰にもクリエイティビティはあるんですよ。ただ、デザイナーには、そこから一歩進めてもう少し具体性を高めるクリエイティビティがあるというだけです。

 だから、ここまでがリサーチ、ここからがデザインと線が引けるものではない。重なっている部分があり、そこが一番大切なんですよね。

松波:
 そう、その通りです。

平田:
 その重なっている部分をどうしていくかなんです。
 行動観察はFact→Insight→Foresightの3ステップと松波さんは説明されます。zibaはデザインというより、「統合された顧客体験を提供する」がスローガンなので、行動観察研究所の「リフレームされたインサイト」を出すというところから、加わっていくことができる。リサーチとデザインの“糊代(のりしろ)”として「リフレームされたインサイト」があると、デザイナーがそこから加わった場合、次のステップにスムーズに進めるんです。

*インサイト
“「複数の事実」を俯瞰し統合することで生まれる新たな仮説の中で「本質的だと確信」できるもの”と行動観察研究所では定義している。

 
松波:
 具体的にデザインにつなげるためにも、「リフレームされたインサイト」は重要だということですね。リサーチとデザインは境目があるわけではなく、一体として進めていくことが重要ですね。「行動観察×デザイン」の実践を広げていければと思いますので、引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

平田:
 もっと大きなことを実現していきたいですよね。ありがとうございました。