コラム

2017年9月15日(金)

行動観察 × デザイン vol.3

安松 健

ziba tokyo 繁里光宏 氏との対談

 
 前回、リサーチとデザインは境目があるわけではなく一体として進めていくという話があったが、具体的にどのように進めていくのか。ziba tokyoと行動観察研究所で実施した協働プロジェクトの事例をもとに、「行動観察×デザイン」という異分野連携がどのように進むのかを紹介する。

※本記事はBiz/Zineで掲載された記事を一部編集して掲載しております

行動観察×デザイン

 両社の協働実践からみえてきたことは、下記の3つ。

 1. デザインの力が調査分析をドライブ
 2. スキル・機能の相互補完よりもマインド・姿勢の共有
 3. 「行動観察×デザイン」は、業務プロセス改革・組織改革

「行動観察×デザイン」というのは、調査分析とデザインのステップをつなぐという単純なことではなく、スキル・機能の足し算以上の相乗効果がある

 

1. デザインの力が「調査分析」をドライブする

1.1デザインの力で分析・洞察を深める


安松健(大阪ガス 行動観察研究所 研究員):
 リサーチとデザイン、デザインプロセスを進めるにあたって、顧客理解のステップがリサーチ力で、アイデア具現化がデザイン力という、きれいさっぱり線が引ける分業ではないですよね。例えば、調査・分析のステップでも、デザインの力でビジュアル化することで、調査分析結果をさらに深めていくことができます よね。

繁里光宏(ziba tokyo クリエイティブ・ディレクター):
 「ペルソナのイメージあわせ」って、言葉でいつもやるじゃないですか。でもそれって、なかなか“びしっと”あってこない。たとえば、20代独身男性といっても、具体的にスポーツマンっぽいとかオタクっぽいなどあるけれど、それらの言葉が出てこない限り、そこは誰も突っ込まない。
 でも、絵で表すと、どのような恰好かを描かざるを得なくなる。そして、いざ描いてみると、いやいやこんな恰好はしていないよというような意見がでてきたりする。このように可視化することで、今まで考えていなかった視点の要素を考えるきっかけになります よね。
 
安松:
 ペルソナだけでなく、調査から抽出したインサイトもそうですよね。たとえば、下記の介護におけるインサイト例ですが、左の資料がテキストだけの“よくある調査レポート”です。この内容をもとに繁里さんにイラストにしてもらったのが、右の資料で、「逃避」というタイトルと背中向けて逃げている男性の姿が描かれています。
 
繁里:
 はい、「抜き足差し足忍び足」みたいな感じで。

安松:
 こうしてイラスト化したことで、「背中を向けてこっそりと逃げているイメージではない」ということに気づくことができました。そして、「顔はこちらを向いたままで完全に腰が引けて逃げている感じ」でお願いしますと再度依頼させてもらいましたよね。
 イラスト化するまでは、インサイトのイメージをしっかりと認識できておらず、言葉として表現しきれていませんでした。「逃げ腰になる」という言葉も、「逃避」とはニュアンスが違うということも強く意識することができたのもイラスト化のおかげ です。そして、変更後のイラストが下記です。
 
安松:
 このような「逃げている時の顔の向きの違い」については、イラスト化しなければ議論することはなかったですし、そして「逃避」と「逃げ腰」の意味や伝わり方の違いをここまで強く意識することもできなかったと思います。文章としては「逃げているのは認めたくないので」と明記していたので、担当者の感覚としては持っていたのですが、それを意識的に表現できておらず、テキストで表現されたレポートでは読み手がそこまでイメージすることはできないということに気づかされたわけです。このように、リサーチのステップに可視化というデザインの力を初めて導入した時は、調査データからインサイトを抽出するのにデザインがこのような威力を発揮することに驚きました。
 デザインの力で可視化することで認識の齟齬(そご)が明らかになり、議論が活性化され、分析力が高まり、さらに洞察が深まっていきますよね。

 

1.2デザインの力で調査分析の結果(インサイト)を伝播させる


 
繁里:
 やはり、メモとかでも簡単な図や絵を入れていくだけで思い出せるようになります。絵があるともどりやすいじゃないですか。字だけの資料と比べると。

安松:
 そうですよね。絵にしておくと、わかりやすい、記憶に残る、そして結果として表現力・伝播力があがります。たとえば、次のイラストは、ぱっと見た感じで一気に両方のページのことをやると伝わってきます。ちょっとしたデザインかもしれないですけど大きな効果があると思います。
 
 調査分析で良い結果を出しても、それが伝わらなければ全然意味がなくて、特にクライアントの社内で伝わっていかないと、結局使われない情報になってしまうので、伝播力は非常に重要です。いくら文字で豊富な調査データを列挙してレポートしても、テキストだけでは直観的になかなか伝わりづらいものです。現場感をより伝えるにはイラスト化は効果的で、簡潔により誤解なく共有することができますよね。そして、調査分析結果をもとに、より建設的でクリエイティブな議論に入ることができやすく、デザインプロセスを前進させることにつながります。

 

デザイン力を、調査分析に活用するために必要な
「着観力」「統合」「リフレーム」


安松:
 このように調査分析結果を、ビジュアル化するというのは、どのくらい実践されているものでしょうか。グラフィックファシリテーションなどはありますが、インサイトをじっくり表現するということとは少し違いますし…。

繁里:
 そうですね。アイデアをデザインに起こすということはやりますが、インサイトをイラスト化するというのは、あまり多くないような気がします。
 そもそも可視化の問題以前に、リサーチャーからデザイナーへのインサイトの伝達が、形式的に伝わっていることが多い のではないでしょうか。デザイナーもただ受け取るだけで、深い考察に至っていない。それでは、リサーチの領域とデザイナーが担当する領域とのギャップが埋まらない。単に業務上、受け渡すということではなくて、リサーチ活動の段階からデザイナーが参加して場の情報を掴んでおかないと、より深い議論や考察ができない と思います。

安松:
 リサーチにおいても、デザイナーに使ってもらえるようなしっかりとしたインサイトを出すことが求められます。そのためには、①調査現場で効果的な事実を収集する「着観力」、②収集情報を「統合」する力、③既成概念を打破し、新しい視点を得る「リフレーム」する力が重要になると思います。

①調査すればいいってものではない―「着観力」
 「着観力」とは、行動観察研究所にて作成した造語でいわゆる「気づき力」のことです。簡単な例を紹介すると、インタビュー中に聞き出した言葉の内容だけではなく、発言中の表情の変化などに気づいてデータ化しておくことが重要です。具体的に言うと、「『毎日楽しく過ごしています』と発言はしているものの、口には出さないがあまり表情が明るくない」というような、発言だけではなく観察した情報も含めてデータ収集することです。人はすべて言葉で説明することはできず、むしろ言葉で表現できることはごく一部ですから、行動を観察することで多くの気づきを得ることが本質に迫るインサイトを抽出するためには重要になります。

②集めた気づきを整理・分類してはいけない―「統合」
 次に、②「統合」ですが、下記のような収集情報があったとします。

・中学時代からしているテニス、65歳になった今も数年前に新しいラケットを買って練習に行っている
・60歳の時にフルートを再開したのは、仕事先で知り合った息子ほどの年齢の若者に演奏を頼まれたのがきっかけ
・フィットネスクラブで知り合った若者とマラソンなどに行っている

 この3つを全て趣味の話だからと一括りに整理・分類はしてはなりません。それぞれ意味が異なるからです。たとえば、趣味を通じての交流が生まれているということと、昔からの趣味を続けているということがあります。それらの意味をそれぞれ残していかなければなりません。それを趣味ということで一括りに分類して、「趣味を楽しむ」などとまとめて内容をまるめてしまっては、深いインサイトにはつながっていきません。

③新しい視点を得る―「リフレーム」
 「リフレーム」とは、従来の枠組み(フレーム)を新しい視点・発想で前向きに作り直すことです。たとえば、「習慣 × 懐古」のインサイトでいえば、年齢とともに力がなくなり、いろいろなことが一人でできなくなり、体調がわるくなったからといって、便利で最新のライフスタイルをしたいわけでは必ずしもない。それよりも、若い頃のライフスタイルを続けることで、自分らしくあり続けたい。昔を回顧したいわけではなく、これまでの自分の生活スタイルを続けていきたいということなのです。
 
【Vol.4に続く】