コラム

2017年9月19日(火)

行動観察 × デザイン vol.4

安松 健

ziba tokyo 繁里光宏 氏・山田理湖 氏 との鼎談

 
 前回は、ziba tokyoと行動観察研究所のコラボレーションでみえてきたことの中から、「デザインの力が調査分析をドライブ」するということを紹介した。今回は、山田理湖氏(ziba tokyo)にも参加いただき、「行動観察×デザイン」という異分野連携の実践における、「スキル・機能の相互補完よりもマインド・姿勢の共有」「『行動観察×デザイン』は、業務プロセス改革・組織改革」ということについて、引き続き紹介する。

前回:「行動観察 × デザイン vol.3」

※本記事はBiz/Zineで掲載された記事を一部編集して掲載しております

2.スキル・機能の補完や役割分担の明確化などではなく、マインド・姿勢が大事

安松健(大阪ガス 行動観察研究所 研究員):
 デザインの力を調査分析のステップでも発揮してもらうためには、デザイナーが深い考察に至るようなしっかりとしたインサイトを出さければならないということ、そして、調査・分析の段階からデザイナーに参加してもらい場をF共有することが重要だということですが、その他にzibaと行動観察研究所のコラボレーション経験からみえてくることはありますでしょうか。

山田理湖(ziba tokyo コミュニケーション・マネージャー):
 デザインに限らず、違う視点でモノを見る、見ようとする というのは、行動観察研究所とzibaに共通して持っている意識だと思います。既成概念を疑う、捉え直すというか。

安松:
 従来とは違うモノの見方・考え方、新しい発想を受け入れる文化を共有できるというのは大きい ですね。ziba tokyoのみなさんは、違う視点の意見をどんどんぶつけても本当に受け入れますよね。異質な意見を遠慮なく自由に言い合えるというのは、異分野連携をする上で必要不可欠な要素だと思います。クライアントとのプロジェクトも同じように進めていくと思いますが、どうでしょうか。

山田:
 zibaは、クライアントから曖昧な状態で困りごとや課題を投げてもらうんです。その曖昧な課題に対して、zibaがこういうことですか、それともこういうことですかと色んなボールを投げ返していく中で、クライアントが気づいていくんですよね。「あ、違った。悩み事はそっちじゃなかった」と。そうすると、どんどん輪郭が明確になっていって、この輪郭だったら、プロダクトデザインですねとか、UIデザインで解決できますよなどと、どの解決策が最適なのかが見えてくる。同時に、解決のために考えるべき要素もいろいろ出てきて、整理すべきことが見えやすくなってくる。もちろん、ある程度の仮説に基づくボールのやり取りですが、初めに解決策をがっちり決めなくても、zibaだったら一緒に考えながら何でも相談できるな ということで、当社に相談していただけているように思います。
 そんなふうに、zibaにはすごく柔らかい状態の、謂わば“ファジーなオーダー”がくるけれど、それに向き合って、頭抱えて、こういうことですかねとやりながら進めていくからクライアントも含めたチームでの「Co-Creation(共創)」になる。曖昧なニーズに対して、ちゃんと輪郭を与えていくことができる。これは幅広いソリューションを持っていて、あらゆるニーズに対する方法論を事前に準備してカードを切っているという意味ではない んです。相談があった時点で、このニーズにはこれ、こちらのニーズにはこれと振り分けられるのではなくて、オーダーメイドのように一緒に考えて進めていく。はじめに正解をもっているわけではない ということです。

安松:
 なるほど。ziba tokyoというと、外資系デザインファーム的な“クールでドライ”というイメージがあるかもしれませんが、実際はしっかりとクライアントに寄り添って、じっくり対話して進めていくという進め方 ですよね。私たち行動観察研究所とそうしたマインドが通ずるところがあるので、だからこそコラボレーションができるのだと常々感じています。やはりzibaのクライアントは、そのような共創的な進め方に慣れている企業が多いのでしょうか。

繁里光宏(ziba tokyo クリエイティブ・ディレクター):
 いえ、慣れていないところの方が多いかもしれません。そもそも、ワークショップ形式というのは、もともとリサーチ会社が開くことの方が多いように思います。一方、デザイン会社にデザインを依頼する時は、そのデザイン会社にまる投げしてしまう。協働するというよりは、デザイナーにお任せしますというスタンスの仕事が多い業界だと思います。

安松:
 そうなのですね。そうすると、共創プロジェクトを実現していくためには、誰かに答えを求めるのではなく、並走しながら新しい視点を受け入れて、みんなで解を創り出していくということを確認していくことが重要になりますね。つまり、“デザイナー”に任せるのではなく、自分がクリエイティビティに関わるのだという主体的なマインド・姿勢が重要 になるということです。そして、これは自分たちのクリエイティビティに自信を持つということの根源となるマインド・姿勢になりますよね。

山田:
 いわゆる“デザイナー”という肩書きを持つ人だけがクリエイターなのではないんですよ。zibaのデザイナーは率先してクリエイティビティを刺激し、加速させる役割であって、プロジェクト参加者全員がクリエイターという意識が大事 になるんです。

安松:
 このマインド・姿勢は、リサーチャーやデザイナーなどの専門家間の連携のためにも必要になる。スキルや機能が相互補完関係にある専門家(ex. リサーチャーとデザイナー)が集まれば、相乗効果がうまれると考えるのは早計で、スキルを共有できるだけではなく、クリエイティビティに対するマインド・姿勢を共有できていることが必要 だということですね。

 

3.「行動観察×デザイン」は業務プロセス改革であり、
 組織改革でもある

安松:
 また、リサーチとデザインを繋ぐというのは、実際はそれほど簡単ではなく、組織的・構造的に複雑な問題がある と思います。実際、調査分析結果を具体的な施策に落とし込めていない現場が多く、組織が壁となるデザインプロセスの断絶問題については以前のコラムに書いた通りですが、リサーチとデザインの担当部署が異なり決裁権者が違うということもあります。

山田:
 大きな組織になればなるほど、リサーチとデザインはチームが分断されていることもあり、業務プロセスとしても分断がありますよね。デザインはある種の専門職ですから、それでチームを括ることが効果的な場合ももちろんあるでしょうが、必要に応じて組織を縦にではなく横に動け、プロジェクト単位でそれぞれの開発チームにデザイナーが最初から加わっているような体制が必要なのではと思います。

安松:
 リサーチャーとデザイナーが互いの仕事を本質的なところで理解していない、最悪の場合は、協働する気がそもそもないということもあります。実際に、「リサーチなんて不要」と考えているデザイナーもいるわけですし、一方で、デザイナーのこと(具体施策への落とし込み)をあまり考慮していない調査・分析も少なくないというのが実状ではないでしょうか。

繁里:
 先ほども話した通りなのですが、デザインの人間がリサーチの現場にいないと“自分ごと”にならないから、完全に“他人ごと”になりがちなんですよね。だから、そうならないように、リサーチするとなったらデザイナーも現地に行って、家庭訪問したりインタビューとか付き合ったりするのがよいですね。さらにいうと、担当役員も家に連れて行く。プレゼンするってわかっている役員がいたら、全てではなくても1件でも現場に同行してもらうと全然反応が違います。とにかく、現場をみんなで共有していないと、後からその話をされても、リサーチに慣れている人はいいけど、慣れてないと現場の温度感や臨場感がわからない んですよね。

安松:
 私も現場を共有するしかないと思います。調査への同行が難しい場合は、せめて調査映像は一緒に見るとか、インサイトを紡ぎ出すワークショップには参加してもらうということがやはり必要だと思います。
 これは一見、調査分析の工程にデザイナーも参画するということなのでダブルコストに思われますが、現在のデザインプロセスの断絶の状況を考慮すれば、ステップとステップを繋いでプロセスに断絶をなくすことの意義は高く、コストをかけて参画してもらった方が結果的に効率的で生産性高いプロジェクトになる と思います。

繁里:
 そうだと思います。


 
安松:
 また、調査分析と具体的なデザインの間にある「アイデアを生み出すところ」で、いかにリサーチャーとデザイナーがコラボしていくかもポイントになりますよね。たとえば、アイデア出しのワークショップでプロトタイピングしながらアイデアを広げていくということがあります。しかし、プロトタイピングという言葉は普及していますが、実際には、プロトタイプのことを試作品、つまり、「“確定した”アイデアを具現化する」という意味で使用されていることが多いように思います。頭だけではなく手を使って考えを深めるために、“未確定な”アイデアをプロトタイピングするという理解がそれほど普及していない と思うのですが、いかがでしょうか。

繁里:
 言葉では作ってみながら検討すると言っていても、「そんなの仕様見ればわかるよ。つくる必要ないじゃん」っていう人がほとんどだと思うんですよね。でも、いくら私たちが「そうじゃない、そうじゃない」っていってもわかってもらえなくて、自分で体験してみないとわかってもらえない。実際、自分で自分のアイデアを作ってみて、触ってみて、使ってみて、この使用感いいね、これいいじゃんという体験をしないと。
 リーンにまわすとか、アジャイルとかは、ソフトウェア業界が多いんですよね。ハードウェア業界でワークショップ重視でリーンにデザインプロジェクトをまわすというのはそんなにないと思うんです。リサーチの結果を受けて、みんなでアイデアスケッチをするというのはあるのですが。
 また、イベントとしてのハッカソンなどもありますが、それを実際の業務でどれだけの会社が取り入れているのかというと、あまりわからないですよね。

安松:
 デザインの力を「アイデア発想⇒具現化」という一方通行にだけ使うという認識ではなく、「アイデア発想⇔具現化」と双方向に行ったり来たりしながら、アイデアを精緻化する ことにもっと活用されるべきですよね。コストがそれほどかかる訳ではないですし、ブレストと並行してプロトタイピングしていくのは本当に効果的で、アイデアを生み出して、深めて、磨いていくのに大きなインパクトがあります よね。
 このような「行動観察×デザイン」の取り組みは、デザインプロセス断絶問題を解決するプロセス改革であり、組織の壁やセクショナリズムを超えていく組織改革でもある と思います。リサーチャーとデザイナーの協働体制をつくり、プロセスの横串を通すことで、イノベーション創出の確度を高めていければと考えています。これからも協働して「行動観察×デザイン」の実践を推進できればと思いますので、よろしくお願いします。
 本日は、ありがとうございました。