コラム

2017年11月16日(木)

発想法としてのKJ法 ~クリエイティブ思考の源流を求めて~

安松 健

 多くのワークショップで実施されるKJ法*は、川喜田二郎氏により考案された手法で、その著書の『発想法』は1967年と50年前に刊行されている。50年前に日本で生まれたクリエイティブ思考とその流れを追い求め、北陸先端大学 國藤進 先生にお話をお伺いした。
*「KJ法」は(株)川喜田研究所が商標登録(登録商標日本第4867036号)しています。
※本記事はBiz/Zineで掲載された記事を一部編集して掲載しております。

クリエイティブ人材輩出の秘訣

安松健(大阪ガス行動観察研究所 研究員):
 國藤先生のご略歴ですが、

●KJ法創始者の川喜田二郎氏にKJ法を学び、川喜田氏・牧島氏らと共に『問題解決学―KJ法ワークブック』を執筆、23 版までつづくベストセラーに(東京工業大学在学時)
●富士通(株)国際情報社会科学研究所に入所、国家プロジェクト『第五世代コンピュータプロジェクト』グループリーダー、北陸先端科学技術大学院大学教授・副学長、日本創造学会理事長・会長等を歴任。博士(工学)
●専門は創造性支援グループウェア、知識創造方法論、グループ知識創造教育
●著書には『知識基盤社会のための人工知能入門』(コロナ社、共著)など
●現在、北陸先端科学技術大学院大学 名誉教授、非常勤講師、JAIST大学院大学調査研究機構・監事

というように、発想法・クリエイティブ思考、知識創造、イノベーション、人工知能(AI)などの分野で、名実ともに多大なるご功績を残していらっしゃるわけですが、その中でも今回特に詳しくお伺いしたいのは、國藤先生の研究室から実際に多くのビジネスアイデア・特許が生まれ、ベンチャー起業家を何名も輩出されていることについてです。
 
左上:後期課程修了生ベンチャー企業「株式会社アロマジョイン」(写真 同社Webサイトより)
右上:講義受講生ベンチャー企業「ハタブネコンサルティング株式会社」(写真 同社Collegium Webサイトより)
左下:商品化例「先端」(写真 宮本酒造店 Webサイトより)
右下:商品化例「もちもちカステラ」(写真 和菓子工房 日本堂 Webサイトより)

 新しい価値・イノベーションを生み出す組織・人材の開発育成は、企業の最大の課題といってもいいと思います。國藤先生が知識創造論・イノベーションデザイン方法論をどのように教授され、いかにしてクリエイティブ人材を育成されているのか、また、新しいアイデアを発想し、創造的であるためにはどうすればいいのかについて、お伺いしたいと思います。

デザイン思考の起源は日本

安松:
 さて、早速ですが、クリエイティブ人材をどのようにして育成されているのでしょうか。

國藤進(北陸先端科学技術大学院大学 名誉教授):
 2014年4月から大学院向きのリベラルアーツ教育として「イノベーションデザイン方法論」という講義(現在の講義名は「イノベーションデザイン論」)を開設しました。創造思考とデザイン思考の考え方を異分野の院生たちにも体得してもらうために、3Dプリンター等によるラピッドプロトタイピングの実習もいれています。

安松:
 デザイン思考は、日本でも多くの大学や企業での導入・実践が進んでいます。

國藤:
 そのデザイン思考は、アメリカが日本から学んだ手法だということをご存知でしょうか。
 慶応大学システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は、スタンフォード大学d-schoolの先生に「日本人はデザイン思考を学ぶ必要はない、デザイン思考は我々(アメリカ人)が日本人から学んだグループ思考の方式なんだよ!」と言われたとのことです(出典:日本創造学会研究大会2014基調講演)。

 また、同大学の石橋金徳特任助教からも同様の指摘をもらっています。それは、IDEOフェローも務めるバリー・カッツ教授も、日本人にわざわざデザイン思考を教育することに疑問に思っています。なぜなら、彼はマツダのデザイナーやエンジニアたちが頭と肩を寄せ合って議論しながらデザインや研究開発を行う現場をみてきました。その様子を引き合いに出しながら、日本と対極的に米国人は、個人主義化が進みすぎているので、明示的にコラボレーションとか、インターディシプリナリ―(異分野連携)だとか共感だとかを打ち出して教育する必要があると考えている、ということでした。

発想法としてのKJ法
~ほとんどのKJ法の運用は間違っている~

安松:
 ということは、日本人は、元々デザイン思考を持っていて、何十年も前から日本にはクリエイティブ思考があったということですね。そうすると、海外に学ぶだけではなく、数十年前の日本にクリエイティブ思考を学ぶことが、私たちにとって重要なことなのかもしれません。

 國藤先生も何十年も前から数々の新しいアイデアを生み出し実現されてきています。その源泉となったものは何でしょうか。

國藤:
 クリエイティブ思考の基本作法を学んだのは、学生時代に参画した川喜田二郎氏の移動大学です。そこでKJ法を学びました。KJ法は非常に有名ですが、残念ながらその真髄はほとんど伝わっていません。KJ法として運用されているほとんどは「フェイクKJ法」と言えるものです。

安松:
 KJ法は、川喜田先生の著書などで方法が明記されているにも関わらず、なぜ、正しく伝わらなかったのでしょうか。

國藤:
 1970年代はKJ法ブームで、日本ではTQC (Total Quality Control、 統合的品質管理) 運動の一環として、 KJ法を基礎とするW型問題解決学が製造業に普及していきました。TQC運動ではKJ法は親和技法と名前替えされ、 普及した人々はKJ法を分類技法として紹介し、その本質である発想技法としてのKJ法を忘れてしまいました。

 例えば、TQM(Total Quality Management)の権威である筑波大学司馬正次名誉教授(「チョットクール」でPadma Shri賞受賞)が日本発創造的問題解決法としてMIT(マサチューセッツ工科大学)等で紹介し、そのMITは、トヨタ生産方式を学び、リーン生産方式として普及させていきましたが、分類法として伝わっていったことがわかっています。また日科技連(日本科学技術連盟)も、「新QC七つ道具」の一つとしてKJ法を親和技法と名前替えし、分類技法の一種として紹介していきました。

KJ法の真髄に迫る
~本物のKJ法とフェイクKJ法の違い~

整理分類ではない
~ロジカルなグルーピングとアブダクティブなグルーピング~


安松:
 川喜田先生のKJ法の著書は『発想法』です。それにも関わらず、発想法としてはなく分類技法として伝わってしまったということですが、本物のKJ法とフェイクKJ法には、どのような違いがあるのでしょうか。

國藤:
 付箋紙などに情報を書いたラベルをグルーピングすると思いますが、グルーピングには2種類あります。

 1つはロジカルなグルーピングです。分析的に因果関係やオントロジー(概念体系)で分類する方法です。もう1つはアブダクティブ(注1)なグルーピングです。これは統合・総合的で(注2)、アウフヘーベン(注3)ともいいます。イノベーティブで洞察に満ちたグルーピングで、形式知だけではなく暗黙知も利用するものでもあります。

KJ法によるグルーピング例(引用元:「KJ法による作法の研究」三村修 2005

 付箋紙などのラベルを、ロジカルに分析的に類似性(similarity) や親和性(affinity)で分類するのはフェイクKJ法です。本物のKJ法とするには、アブダクティブなグルーピングをすることが求められ、類似性(similarity)や親和性(affinity)ではなく、ラベルの持つ志(real intension)でグルーピングすることが重要です。


【聞き手による注釈】
(注1):アブダクションとは、アメリカの最も偉大な論理学者といわれたチャールズ・サンダース・パースが提唱した演繹、帰納に続く第三の方法。(Wikipedia参照)
(注2):分析の対義語
(注3):ドイツの哲学者であるヘーゲルが弁証法の中で提唱した概念。古いものが否定されて新しいものが現れる際、古いものが全面的に捨て去られるのでなく、古いものが持っている内容のうち積極的な要素が新しく高い段階として保持される(Wikipediaより引用
 

単語ではなく文章で書く


安松:
 ロジカルな分類ではなく、アブダクティブに分類するポイントは何でしょうか。

國藤:
 アブダクティブグルーピングをするには、どのようにラベルをつくるか(付箋紙にどのように情報を書くか)が重要です。

 各ラベルには一つの志がはいっていなければなりません。各ラベルに一つの志がなければならないのです。そのためには単語ではなく文章で書かれている必要があります

 

次元の発見は最後に起こる
~メソッドではなく哲学としてKJ法を理解する


安松:
 ロジカルとアブダクティブなグルーピングをした結果、どのような違いが生まれるのでしょうか。

國藤:
 本物のKJ法ではイノベーションにつながる洞察を得るため「次元の発見が最後」に起こります。他のほとんどの創造技法はトップダウンで、始めに分類軸に相当する次元(dimension)ありきです。そうではなく次元は最後に発見されるのです。

 始めから次元を設定するのではなく、「データをして語らしむ」(Let the data speak for itself)です。川喜田先生は「虚心坦懐に己を空しくして、ラベルの語りかける声を傾聴しよう」と言っています。海外でも“Free yourself of prejudice and carefully listen to what the labels are trying to say”と説明すれば理解されます。そうすれば、自ずとKJ法図解完成の最後に、次元の発見が起こるはずです。

 このようにKJ法というのは単なるメソッドとしてだけではなく、フィロソフィーでもあるのです。つまり、KJ法の「法」は、華道・茶道・剣道の「道(Tao)」だと理解した方がよいでしょう。最近、海外の友人はKJ-Methodでなく、KJ-HoとしてKJ法を紹介しています。

安松:
 その「本物のKJ法」を実際に学んだ受講者の声としても、

●これまでは情報の扱いが雑だったことを実感した
●ラベルを5~6個に統合し、全体構造(関係性)を図解化することで、本質が浮かび上がってくる
●ラベルに書かれていることとその解釈を厳密に区別することの重要性を痛感した

 ということが聞こえてきます。KJ法を正しく学べば、本物とフェイクの違いを実感できるということだと思います。

常に創造的であるために
~千三つ(せんみつ)を100に3つにする工夫と信念~

フィールドでの観察なくして、いいアイデアはでない


安松:
 新規事業は千三つ(せんみつ、1000分3の成功確率)と言われます。その確率を高めるためには、どのようなことが重要でしょうか。

國藤:
 IDEOのトム・ケリーもIDEOの秘密は「現場観察」にあると言っています。フィールドワークに行き、現場を観察する過程で、初めて発想が生まれてくるのです。五感全体を通じて、フィールドの課題を認識することが大事で、川喜田先生は360度の角度から、ハプニングを逸せず、飛び石伝いに、定性的にデータを採取せよと言っています。

安松:
 「360度の角度から」「ハプニングを逸せず」というのは、フィールドに出る前に観察ポイントを全てあらかじめ想定準備するものではない、あらかじめ想定している仮説や見たいものだけをみるような姿勢では、新しいアイデアにはつながらないということですね。

 

W型問題解決プロセス 
~アブダクション(発想)→ディダクション(演繹)→インダクション(帰納)~


國藤:
 また、創造的問題解決プロセスも重要です。KJ法のW型問題解決プロセスを紹介すると、標準的には次のようになります。

 R1:課題的ラウンド、R2:現状把握ラウンド、R3:本質追究ラウンド、R4:構想計画ラウンド、R5:具体策ラウンド、R6:手順化ラウンド、R7:実施ラウンド、R8:検証ラウンド、R9:結論&振り返りラウンドです。R1~R3はアブダクションのプロセス、R4~R5はディダクション(演繹)のプロセス、R6~R9はインダクション(帰納)のプロセスです。

安松:
 W型問題解決モデルは、以前コラム「デザインプロセスの精緻化…」でも紹介したのですが、非常に有用だと実感しています。

國藤:
 しかし、問題解決のプロセスの誤った運用がよくみられます。間違ったW型問題解決学の適用はR2(現状把握)やR3(本質追究)なしに、R1(課題)からR4(構想計画)に一気にいってしまう。ほとんどの人はこのプロセスの前半(R1~R3)を謙虚に学んでいないのです。

 

國藤流の夢学発想法


安松:
 このW型問題解決とKJ法、國藤先生は、つねにこれらを駆使して、問題解決に取り組まれているのでしょうか。

國藤:
 初めての未知の問題に取り組むときはW型問題解決学でアタックします。しかしながら日常的な課題解決では、使いません。その理由は何年もKJ法を試行し、単純な問題は頭の中でKJ法をシミュレーションすることが出来るようになったからです。そのかわりに、次のような発想にかかわる信念を持つことと工夫をしています。

1.思いついたことは絶対諦めずに成功するまで行う。するといつかは偶然の女神の微笑みを体験するだろう。
2.何事もポジティブに考え、ポジティブに行動する。ただし、計画時にはありとあらゆる状況をネガティブに想定した未来シナリオを作る。
3.「ノミュニケーション」を大切にする。お酒の雰囲気がその人の本音を晒し出す。雰囲気を楽しむことが創造的な発想につながる。
4.ステークホルダー全ての知(データ、情報、知識)を集める。360 度の角度からの知を集めることで、全体像が見える。全体像を見すえ、時代の流れを俯瞰する中で判断する。
5.ガーフィルドの「夢学」を白隠禅師の「夜船閑話」、「遠羅天釜」に書かれている内容とマージさせ、まとめた、次なる國藤流「夢学発想法」を行う。
 
【國藤流「夢学発想法」】
●寝る前に腹式呼吸しながら、必死で解決したい問題を考える
●赤ワインをナイトキャップとして十分に睡眠を取ると、明け方にその問題に対する夢を見る
●問題を解決できない場合、最初は怖い夢を見る
●毎日同じ努力を続けると、夢は変容していく
●ある朝、解決のヒントの夢を見る
●枕元にメモ用紙を置き、その夢のメモを取る。同時に、メモの内容を誰かに話す
●すると、いつかはその夢の内容を実現できる
 

不思議だなと思ったら、まず質問しよう


安松:
  これが國藤先生の“ひらめきパターン”なのですね。これらの創造力の原点は何なのでしょうか。

國藤:
  日本心理学会誌に書いた「私の発想法の源流」にあるように、教育熱心な母親の教育のせいで、小さいころから「不思議だなと思うことは大事にしなさい。そこに何かが潜んでいるよ」、「分らなければ辞書を引きなさい。辞書を引いて分らなければ、そばにいる人に質問しなさい。分るまでしつこく質問しなさい」という教育を受けました。中学一年時、科学クラブ顧問の大本峯生先生が私の「思い」を真剣に聞いてくださり、夏休みの科学作品に「減圧蒸留装置」を試作しました。この装置は読売新聞の発明工夫展の全国大会で優秀賞を取り、中学時代は発明少年でした。また大学でも、宮城音弥先生、川喜田二郎先生、森政弘先生と恩師に恵まれました。富士通(株)就職時も北川敏男先生という「名伯楽」に恵まれました。優れた師匠との出会いが私の財産です。失敗しても最後まで「やり抜く力」が強いのでしょう。

 いつも講義の最後に学生に伝えるメッセージを書いておきます。このメッセージは紫綬褒章受章の篠田傳氏から教わったものです。

1.Foster a dream(夢を育む)
2.Believe a success(成功を信じる)
3.First do(ともかくやってみよう)
4.Thinking、 Thinking、 and Thinking(考えて、考えて、考え抜く)
5.Never give up(決してあきらめない)
6.Then、 you will get a great chance(そうすれば、いつかは大きなチャンスがやってくる)
 

安松:
  本日ご紹介いただいたメソッドやフィロソフィーの教育を受けて学び、そして創造的であるための工夫や信念を実践され続ける先生の背中をみて、イノベーティブ人材が育っていくのですね。大変貴重なお話をありがとうございました。

 

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