コラム

2013年9月26日(木)

ビッグデータであれ行動観察であれ、本質的な点

松波 晴人

 今回は素晴らしい書籍を紹介したい。

 その書籍は、「会社を変える分析の力(河本薫著、講談社現代新書)」である。著者は日経情報ストラテジーが選ぶ第1回データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞したデータ分析の専門家である。
本書籍は7月に発売されたばかりだが、既に何度か版を重ねているほどの売れ行きである。

 この書籍の何が素晴らしいか。
それは、至極まっとうに、躊躇無く、本質を突いている点にある。
ストレートをど真ん中に堂々と投げ込んでくる爽快感がある。
潔さと知的誠実性をとても感じる。
さらに、私は行動観察と共通する哲学を感じる。

 本書のテーマは「データ分析力を武器にしてビジネス価値を生むにはどうすればいいか」である。筆者の論旨は明確である。
ぜひあなたも、以下の質問を考えてみていただきたい。

質問: 「データ分析の価値」は何で決まるか?

「分析手法の高度さ」か?
「データの大きさ」か?
「精度」か?
「数学力」か?

 筆者は、すべて違うとする。そしてこう断言する。
分析の価値は、「その分析で意思決定を改善することで得られる効用」で決まる。

 つまり、ビジネスの重要な意思決定にどれだけ寄与するか、で決まると言うのだ。この点は、当たり前のように思われるかもしれないが、この当たり前ができない場合がとても多い。一生懸命仕事をしていても、「そもそも何のためにやっているのか」を忘れて、細かい部分に凝り始めるのが人間だ。どういう家を建てるために工事をしているのかをすっかり忘れ、レンガの色とか欠け具合とか細かい点に凝ってしまう。

 しかし、「分析手法の高度さ」「精度」に凝ることをゴールにするのではなく、「ビジネスの重要な意思決定にどれだけ寄与するか」という本来のゴールを強く認識したときに、仕事のしかたは変わってくるはずである。

 これは行動観察でも同じだ。
そもそも何のために行動観察をしているのか。
なぜこの場にいるのか。
なぜこの人を観察しているのか。
それを忘れては、どうでもいい気づきしか得られない。

 筆者は、こうも書いている。

「ビッグデータを司るのは人間の思考力」

そうなのだ。
分析のデータを集める、観察でファクトを集める。重要なことだ。
しかし結局のところ、それをどう解釈しインサイト(洞察)を得るか、そこが最も重要である。データだけあっても、ファクトだけあっても、ビジネスの意思決定はできない。インサイト(洞察)があってはじめて、ビジネスの意思決定が可能になる。

ということで、データ分析を専門としていない方々でも、「本質」をつかむためにぜひ本書をご一読いただきたい。