コラム

2013年10月24日(木)

「調べてみる」のちから

松波 晴人

 予約していた東京駅からの新幹線が発車する10分前、私はまだ本屋にいた。

 いいかげん、急いで改札に向わなければならない。
そんなせっぱつまった中、少々風変わりな本が目に入ってきた。ぱらぱらとめくった後、駅に向わないといけない足をレジに向けて衝動買いをした。

 もし買った直後に調査員がやってきて、「どうしてその本を買ったんですか?」と聞かれたとしても、ちっとも構造的に答えられなかったであろう。しかし、その本のおかげで、帰りの新幹線では知識(?)とエネルギーの補充ができた。

 その書籍は「かつて誰も調べなかった100の謎 堀井憲一郎著」という。
みなさんは、チョコボールの金のエンゼルはどれぐらいの確率で入っているかご存知だろうか?

 私は知らなかった。
著者の堀井氏は、それを調べるのに、製造している菓子メーカーに問い合わせたりしない。1021箱ものチョコボールを、お店を回って買い集め、一つ一つ開封して、どれぐらい金と銀のエンゼルが入っているかを調べる(念のため断っておくと、金のエンゼルなら1枚、銀のエンゼルなら5枚集めると、おもちゃのカンズメというプレゼントがもらえます)。すごい労力だ。そして得られた結果は、1021箱中、金のエンゼルは1枚、銀のエンゼルは64枚であった。

 これ以外にも、「銀座の高級寿司店に行くといくらかかるか」、「エスカレーターで右に立つのはどこか」「郵便ポストの回収は表示されている時間どおりに来るのか」といったことを現地に行って調べたり、時代劇を9年分調べて「越後屋は悪徳商人の屋号として1度も出てこない」という意外な事実を発見したりする。

 この本が素晴らしいのは、調査方法が優れているとか、精緻であるとか、統計的に正しいとか、そういったところにはない。なんでも調査「してみる」という態度が素晴らしい。

 どの組織にも起きていることであるが、現代では説明責任がすごく求められる。「こういうことをやってみたいんです」と一言いったとたん、「どうしてもやらないといけないのか?」「なぜそれでうまくいくのか説明してくれ」「予算を使うことになるから私だけじゃなくてもっと上の決裁が必要だ」といった様々な質問という名のボールがあなたに投げられることになる。

 あなたは、それがたとえどんな悪球であったとしても、「やってみたいことをやってみる」ためにはすべてクリーンヒットにして打ち返さないといけない。
もちろん、そういった厳密な手続きを経ることが大事な種類の仕事もあるだろうが、こと「新しいこと」や「イノベーション」に取り組もうとするときには、障害になってしまう。

「とにかく行って調べてみようよ」と行動を起こそうとしたときに、「どうして行く必要があるのか説明しなさい」と言われてしまうと、何もできなくなってしまう。

 何にでも疑問を持ち、好奇心を持つことが重要である。

 私からすれば、「チョコボールの金のエンゼルはどれぐらいの確率で入っているか」も、正真正銘、立派な知的好奇心である。どんなことであっても興味をもって貪欲に知識を収集する。そういった引き出しをみなさんにはどんどん増やして欲しい。
そして、説明責任にはすべて答えきれないけれども、短期的には生産性が落ちそうであったとしても、アクションを取る勇気を忘れないでほしい。ちなみに、銀座の高級寿司店でビール1本に寿司5種10個食べると、だいたい1万円ぐらいだそうです。